お金に余裕があっても銀行から融資を受けるべき?

目次

はじめに

これから開業をしようという場合や、創業されて間もない場合、資金調達に悩む方は少なくありません。
しかし、その時点ではまだ事業者としての信用がないため、いわゆるメガバンクなど大手銀行からの融資は難しいのが現状です。

一方、日本政策金融公庫(以下、金融公庫)は国が株式の100%を保有する事実上の公的金融機関であり、民間の金融機関での融資が難しい事業者への融資も積極的に行っています。

とは言え、銀行からお金を借りる以上、利息を含めて返済していく必要があります。「借金はするべきではない」「自己資金だけでやるべきだ」という考え方も一つの信念として尊重されるべきものです。ただ、「自分はまだ資金に余裕があるから借りなくてもいい」と考えている方にこそ、以下の理由から「お金に余裕があっても借りるべき」と私は考えます。

1.創業時と事業開始後では融資基準が異なる

会社での新卒採用と中途採用を想像してください。基本的に前者は応募者のポテンシャル、後者はこれまでの実績で評価されます。

融資も同様に、創業時は将来の事業計画が判断基準となり、事業開始後は売上や利益といった実績で判断されます。事業計画は専門家のアドバイスを受けながらしっかりしたものを作れますが、既に事業を行っている場合の数値はごまかせません。

また、融資を受ける際にはある程度の自己資金も必要なため、いざピンチに陥ってお金を借りたいと思っても、その時点では融資を断られる可能性が高いのです。

2.創業時の有利な制度を利用できる

日本政策金融公庫の場合、「新たに事業を始める方または事業開始後税務申告を2期終えていない方」という要件を満たせば「新規開業資金」制度を利用でき、低利率(年利1.5~2%程度)や担保・保証人が原則不要などの条件で融資を受けられます。個人事業主の方も利用可能です。

2024年3月をもって、日本政策金融公庫の「新創業融資」制度が廃止され、「新規開業資金」制度に変更となりました。
返済期間や据置期間が延長されており、実質的により優遇された制度で融資を申し込むことができるようになりました。

私の場合、地元の信用金庫の創業融資制度に長浜市の創業支援制度も併用できたため、年利0.8%で借りることができました。100万円の融資を受けても1年で利息が8,000円です。一般的なカードローン(年利10%以上)やリボ払い(年利15~18%)と比べると、圧倒的な低さです。

事業のための支払利息は経費として計上できるため税金の圧縮にもなります。

3.融資実行までの時間を考慮する必要がある

一般的には融資の申込から入金までは以下のようなプロセスで進んでいきます。
融資申込 → 事業計画書などの資料提出 → 銀行との面談 → (融資決定の場合)追加書類の提出 → 入金

申込から入金まで早くても1.5か月程度かかります。融資決定後も意外と多くの書類提出が必要で、場合によっては銀行まで何度か足を運ぶ必要もあります。本当に資金繰りがピンチになってからでは間に合わない可能性があるのです。

4.融資と返済の実績でより大きな金額の融資を受けられる可能性

クレジットカードの限度額が、利用と返済の実績により増えていくように、銀行も同様です。借入を期限通りに返済することで信用力が高まり、ある程度完済の目途がついたところで、より大きな金額の融資を受けられる可能性が高まります。

また、融資が通りやすい日本政策金融公庫から先に融資を受け、その実績をもとに地元の銀行や信用金庫から別途融資を受けるのも有効です。公庫で作成した計画書を元に面談を進められます。逆に言えば、金融公庫から融資を断られた場合、他の銀行から融資を受けることは難しくなる可能性があります。

5.精神的な安心感がある

いずれ返済が必要とは言え、基本的には5~7年、条件によってはそれ以上の長期で返済できるため、創業当初の1~2年の資金繰りが厳しい状況下で、まとまった金額の現金が口座に入ることは精神的にも大きな安心感があります。

無駄遣いは避けるべきですが、事業に必要な初期投資は惜しむべきではありません。計画的に資金運用できる人には大きなアドバンテージがあります。

銀行からお金を借りないほうが良いケースは?

逆に、融資を受けない方が良いケースもあります。

1. 返済計画を立てられない

専門家のアドバイスを受けても自分で返済計画をまったく立てられない場合、期日通りの返済が難しいため、融資はおすすめできません。また、一時的に大きな金額が口座に入ることで気が緩み、不必要にお金を使ってしまう場合も、後で首が回らなくなるリスクがあります。

2. 資金が潤沢にある(数年以上の運転資金)

数年以上の運転資金に余裕があり、本当に融資を受ける必要がないケースです。ここまで余裕がある場合は稀ですが、すぐに融資を受ける必要性は薄いと言えます。

当事務所も創業融資を受けています

私も創業時には「自己資金だけでやっていけるんじゃないか」という考えを持っていました。しかし色々検討した結果、開業2ヶ月後に日本政策金融公庫から融資を受け、その1ヶ月後に地元の信用金庫から順に融資を受けました。

事業計画について銀行の担当者からフィードバックも得られましたし、多くの方にとって銀行と繋がりを持つことはプラスです。特に行政書士の場合、書類を扱う関係上、計画書の作成やその他の書類を揃えて提出するという実務面からも、単にお金を借りる以上のプラスの経験がありました。

融資で実現できたこと

実際に融資を受けたことで、ワークショップを行うための複数台のノートパソコンや音楽機材の調達など、事業に必要な初期投資を躊躇なく行うことができました。これらは自己資金だけでは慎重になりすぎて購入を先送りしていたかもしれませんが、結果的に早期に設備投資できたことで、より多くのクライアントにサービスを提供できるようになりました。

しかも、これは「行政書士だけでなく音楽活動も同じくらいの優先度で進めていくべきだ」という融資担当者からのアドバイスがあっての融資です。そのメッセージは大変心強く感じました。

先日、改めて日本政策金融公庫の融資課長と面談する機会があり、公庫が力を入れている分野について伺いました。ソーシャルビジネスや地域のスタートアップ、さらには非営利団体への融資も積極的に行っているとのことでした。利益だけでなく、その事業の支援者やファンの存在、地域社会への貢献度も評価するという姿勢に、金融機関も創業者や地域事業者を本気で応援していることを実感しました。

それぞれの信念を尊重しつつ

「借金は絶対にしたくない」「自己資金だけでやりたい」という考え方は、一つの信念として尊重されるべきものです。実際、借入をせずに堅実に事業を運営されている方も多くいらっしゃいます。

ただ、創業融資の低金利や有利な条件は、まさに創業者を応援するために国が用意した制度です。これだけの低金利でお金を借りられるのは創業時の特権であり、こうした制度を知らずに、あるいは「借金は悪」という固定観念だけで利用しないのは、少しもったいないのではないかと思います。

現在の低金利政策も、今後変わっていく可能性があります。アベノミクスから始まった低金利政策は10年以上続きましたが、日銀総裁も黒田氏から植田氏に交代し、金利政策の見直しの可能性も報道されています。長期的には今以上に低金利で融資を受けられることはないかもしれません。

それぞれの事業者の状況や考え方は異なりますが、少なくとも「選択肢として知っておく」ことには価値があると思います。融資を受けるか受けないかは最終的にご自身の判断ですが、知らないまま機会を逃すのは避けたいところです。

クリエイターや個人事業主の方々に、こうした資金調達の選択肢があることを知っていただき、それぞれに合った形で事業を発展させていただければと思います。

この記事が気に入ったら
フォローしてね!

よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!
目次