生成AIの利用と著作権侵害について

目次

はじめに

生成AI(ChatGPTなど)の展開や認知度がこの1~2年で爆発的に広まり、多くのユーザーがAIに触れるきっかけとなりました。

生成AI(または生成系AI)とは、「Generative AI:ジェネレーティブAI」とも呼ばれ、さまざまなコンテンツを生成できるAIのことです。従来のAIが決められた行為の自動化が目的であるのに対し、生成AIはデータのパターンや関係を学習し、新しいコンテンツを生成することを目的としています。

引用元:https://www.nri.com/jp/knowledge/glossary/generative_ai.html NRI 生成AIとは


生成AI(Generative AI)は、従来型AIの自動化とは異なり、データのパターンや関係を学習して新しいコンテンツを生成する特徴を持ちます。
この特性ゆえに、著作権との関係で慎重な対応が求められています。

著作権法上の根拠

著作権法30条の4(著作物の利用に係る技術開発・実用化のための試験の例外規定)

著作権法では、著作物の利用に関して「著作物に表現された思想・感情の享受を目的としない利用」(著作権法30条の4)であれば、著作権者の許諾なく利用可能とされています。

しかし、生成AIによるイラストや音楽などの生成は、単なる学習や分析ではなく、著作物の直接的な出力と閲覧を伴うため、この要件に抵触する可能性があります。

著作権侵害の判断基準

著作権法上、著作権を侵害するか否かにあたって、主に以下の2つの要件で判断されます。
類似性:生成された内容が既存の著作物と同一または類似している
依拠性:生成AIが既存の著作物に依拠して(基づいて)内容を生成している

引用元:「令和5年度著作権セミナーAIと著作権」(文化庁著作権課、令和5年6月)P21
https://www.bunka.go.jp/seisaku/chosakuken/pdf/93903601_01.pdf

生成AIによる著作権侵害のリスクは、以下のような場合に特に高まると考えられます。

・既存の著作物(文章や画像など)をそのまま入力し、類似の出力を得ようとする場合
・特定の作品や作家の題号、固有名詞を指定して類似の作品を生成させる場合
・学習データに含まれている著作物の特徴的な表現が出力に反映される場合

AIの学習用データ収集はどのような手段で行っているのか

一般的には、インターネット上から自動的にデータを収集する「スクレイピング」、政府機関や研究機関、企業が公開している「オープンデータの活用」、専門業者にデータ収集を委託する方法などがあります。
また、ユーザーからドキュメントファイルなどをアップロードし、それをAIに分析させるサービスもあります。

しかし、各AIサービスの具体的な収集方法や範囲はベンダーの企業秘密となっている部分が多く、完全には公開されていません。
どのデータをどのようにして収集しているかが明かされない以上、AIによる生成物を対外的に使用するという点については現時点では法的な判断が確立していない領域であると言えます。

生成物の著作権保護

生成AIによって作られた成果物自体の著作権については、以下の点に注意が必要となります。

著作物性の判断基準

  • 人が創作的表現のために「道具」として生成AIを使用した場合は著作物となり得る
  • そのためには、人が創作意図を持って創作的寄与をしたことが必要
  • 単なる長文プロンプトの入力や、複数回の生成だけでは創作的寄与とは認められない可能性が高い

生成AIを活用する際のガイドラインの例

企業が団体が定めた、生成AIを活用する際のガイドラインの例として、東京都庁知事部局デジタルサービス局は、東京都で初めてとなる文章生成AIの利活用ガイドラインを定めています。

こうしたルールの策定は、組織下のルールの統制と、そのルールを順守していることを対外的に発表するという二つの点で重要であると言えます。

引用元:文章生成AI利活用ガイドライン(東京都庁知事部局デジタルサービス局)P13

企業のAI活用事例

企業の中には、生成AIを活用した商品をニュースリリースで発表しているものもあります。

株式会社伊藤園(社長:本庄大介 本社:東京都渋谷区)は、生成AIを活用した茶葉の生命力を最大限に引き出す革新的なパッケージデザイン(※1)の特定保健用食品「お~いお茶 カテキン緑茶」と、水でもお湯でもすぐ溶けるパウダータイプの機能性表示食品「お~いお茶 カテキン緑茶 スティック」を、9月4日(月)に新発売します。また同時に、カテキンを含有している対象製品を対象にした「カテポ(カテキンポイント)マイレージキャンペーン」をスタートします。


今回発売する「お~いお茶 カテキン緑茶」ドリンク製品・リーフ(スティック)製品は、株式会社プラグ(社長:小川 亮 本社:東京都千代田区)がパッケージデザイン用に改良した『商品デザイン用の画像生成AI』サービスのパイロット版を活用し、AIで生成された画像を参考に、イラストやデザインをデザイナーが作成しなおし完成させた新デザインのパッケージを採用しました。このデザインは、生成AIによる画像を参考に茶葉の生命力を現したもので、従来のデザインとは一線を画く鮮やかな色彩と抜群の視認性を最大限に引き出したデザインをあしらいました。

(略)

(※1)本デザインは生成AIの画像を参考にして、イラストやデザインをデザイナーが作り直しています

引用元:https://www.itoen.co.jp/news/article/55683/ 伊藤園ホームページ 生成AIパッケージ「お~いお茶 カテキン緑茶」シリーズを、9月4日(月)より販売開始。同日より「カテポマイレージキャンペーン」をスタート

上記ホームページでは注釈の中に「生成AIが作った画像を参考にして、デザイナーが作り直している」という表記があり、生成した画像をそのまま使っている訳ではないということを明らかにしています。

このアピールには2つの狙いがあると考えられます。
1. 著作権や生成AIの概念を十分に検討・配慮して使用していること
2. 適切に生成AIを使用することで商品開発の工数削減を達成していること

まとめ

生成AIは非常に便利なツールですが、著作権法上の様々な考慮が必要です。
特に、生成物の出力における依拠性・類似性の判断、そして生成物自体の著作物性について、慎重な検討が求められます。
また、現時点ではどれだけ長いプロンプトを入力するとか、プロンプトを何回も打ち直した、というだけではそれが創作的寄与(AI生成物に対して人間が手を加えた)があるとは言えない可能性が高いです。

個人の見解としては、現時点では生成AIによる生成物をそのまま対外的に使う、自らの著作物として扱うということは著作権侵害のリスクが高く、用途としてはアイデア出しであったり、内部的な検討資料の作成やインスピレーションを得るための手段というところが主体となってくるのではないかと思います。

また、生成AIを利用する際の組織内・外にガイドラインを作成して発表すること、伊藤園の例のように適切に生成AIを活用して対外的に発表するなどの例は事例として参考になるのではないかと思います。

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