口約束はNG!フリーランス新法の契約書ルールを徹底解説【第2回】

目次

はじめに

第1回の記事では、フリーランス新法の基本と「誰が保護されるのか」について解説しました。

今回は、フリーランス新法で最も重要なルールの一つ、①書面等による取引条件の明示義務について詳しく解説します。

「いつも口約束で仕事を受けているけど大丈夫?」
「LINEでのやり取りは契約書として認められる?」
「契約書には何を書けばいいの?」

こうした疑問を持つクリエイターの方は多いのではないでしょうか。実は、フリーランス新法では書面等で取引条件を明示する義務が発注者に課されており、これを守らないと法律違反になります。

私がクリエイターとして実際にやり取りをしてきた音楽制作の具体例を交えながら、クリエイターが知っておくべき契約ルールを分かりやすく解説します。

なぜ書面が必要なのか?

民法では、契約は当事者の合意があれば口約束でも成立します。書面がなくても法的には有効な契約です。しかし、口約束には大きなリスクがあります。

口約束の主なリスク
・「言った・言わない」のトラブルになる
・報酬額や納期があいまいになる
・後から条件を変更されても証拠がない
・報酬の支払いが遅延したり、支払ってもらえなかった場合に証明が難しい

特にフリーランスは発注者に比べて立場が弱く、不利な条件を押し付けられたり、後から条件を変更されたりするトラブルが多発していました。

フリーランス新法では、こうしたトラブルを防ぐため、発注者に対して「直ちに」書面等で取引条件を明示する義務を課しています。

これは第1回で解説した「業務委託事業者」「特定業務委託事業者」のどちらにも適用される重要なルールです。つまり、フリーランスに仕事を発注する人は、従業員を雇っているかどうかに関わらず、全員がこのルールを守る必要があります。

取引条件を明示するタイミング

フリーランス新法では、発注者は業務委託をした場合、「直ちに」取引条件を書面等で明示しなければなりません。

法律用語では、緊急性の度合いによって以下のように使い分けられます。
直ちに > 速やかに > 遅滞なく
直ちに: あらゆる理由があっても遅れが許されない、「同時に」とほぼ同じ意味
速やかに: できるだけ早く、でも多少の猶予は認められる
遅滞なく: 書類の発送準備など、正当な理由があれば遅れても良い

フリーランス新法では「直ちに」という最も厳しい表現が使われています。これは、契約が成立したらその場で、あるいは極めて短時間のうちに書面等を交付しなければならないということです。

実務的にはどうすればいい?

契約が成立した「直後」に書面等を交付する必要があります。実務的には、以下のような対応が求められます。

契約成立前に準備しておくべきこと
・3条通知(取引条件を記載した書面)の作成
・メールやLINEで送信できる状態にしておく
・契約書を印刷して持参できる準備

例えば、対面で打ち合わせをして「それではお願いします」と契約が成立した場合、その場で契約書を渡すか、その日のうちにメールで送る必要があります。

書面?メール?LINE?何で渡せばいい?

フリーランス新法では、取引条件の明示方法として「書面」または「電磁的方法」を認めています。

書面とは?
・物理的な契約書
・発注書
・覚書
など、紙に印刷されたものを指します。

電磁的方法とは?
・電子メール
・PDFファイル
・LINEやMessengerなどのSNSメッセージ
これらの方法で取引条件を明示することができます。

電磁的方法で明示した場合でも、フリーランス(特定受託事業者から書面の交付を求められたときは、「遅滞なく」交付しなければなりません。ここでは「直ちに」ではなく「遅滞なく」という表現が使われています。つまり、郵送準備などの正当な理由があれば多少の猶予は認められるということです。

LINEでのやり取りは有効?

LINEでのメッセージも電磁的方法として有効です。ただし、受注者・発注者ともに必ずスクリーンショットを保存しておきましょう。

LINEのメッセージのやり取りには以下のようなリスクがあります
・メッセージが消える可能性がある
・相手がアカウントを削除すると証拠が残らない
・トーク画面が流れてしまうと探すのが大変

3条通知で必ず記載すべき9項目

フリーランス新法では、取引条件を明示する書面(これを「3条通知」と呼びます)に以下の9項目を記載することが義務付けられています。

①発注者の名称等

会社名や個人名、住所、連絡先を記載します。

②フリーランス(特定受託事業者)の名称等

受注者の氏名、屋号、住所、連絡先を記載します。

③委託日

業務委託契約を締結した日付を記載します。

④給付内容(成果物の納品や役務の提供の内容)

どんな仕事を依頼するのかを具体的に記載します。

音楽制作の例:
・企業CM用BGM(30秒版)の作曲・編曲・ミックス
・ジャンル:ポップス/明るい雰囲気
・納品形式:WAVファイル(44.1kHz/16bit)

「いつもの感じで」「いい感じの」といった曖昧な表現ではなく、できるだけ具体的に書くことが重要です。

⑤給付の受領の期日と場所

成果物を納品する日時と方法を記載します。

例:
・2025年5月31日までにメール添付で納品
・2025年6月10日 14:00 ○○スタジオにて手渡し
・2025年7月15日までにギガファイル便でデータ送付

⑥検査完了日(検査をする場合)

納品物をチェックする場合、その完了予定日を記載します。検査をしない場合は記載不要です。

例:
・納品後5営業日以内
・2025年6月20日

⑦報酬額

税込みの金額を明記します。

例:
・40,000円(税込)
・80,000円(税込・著作権譲渡込み)
著作権の扱いも併せて記載しておくとトラブル防止になります。

⑧報酬の支払期日

いつまでに支払うかを明記します。

例:
・検査完了日の翌月末日
・2025年6月30日
・納品日から30日以内

次回(第3回)で詳しく解説しますが、フリーランス新法では原則として給付受領日または役務提供日から60日以内に支払期日を設定する必要があります。

⑨支払方法に関する必要事項(現金以外の場合)

銀行振込、電子マネーなどの支払方法と、必要な情報を記載します。現金で手渡しの場合は、この項目は不要です。

委託時に未定事項がある場合は?

契約時に決まっていない項目がある場合は、その理由と、内容を定める予定期日を明記する必要があります。

例:「成果物の納品方法と受け渡し場所は打ち合わせ後、2025年5月1日までに協議の上決定する」

ただし、重要な項目(特に報酬額)が未定のまま仕事を始めるのはトラブルの元になる可能性が高いです。できる限り事前に決めておくことをおすすめします。

まとめ

フリーランス新法では、発注者側はフリーランスに対して業務委託をした場合「直ちに」書面等で取引条件を明示する義務が課されています。

✅ 「直ちに」=契約成立と同時に明示する必要がある
✅ 紙の書面でも、メールやLINEでもOK(ただしスクショ保存を推奨)
✅ 取引条件は9項目の記載が必須(特に報酬額と支払期日は重要)
✅ フリーランス同士の取引でも取引条件の明示が必要

補足事項

今回解説した3条通知は、フリーランス新法で義務付けられた「最低限」の内容です。より安全な取引のためには、以下の事項も契約書で定めておくことが望ましいです。

・成果物に欠陥があった場合の対応(契約不適合責任)
・納期遅延時の取り扱い
・修正回数と追加費用の基準
・秘密保持義務
・損害が発生した場合の責任範囲 等

ただし、こうした詳細な契約条項を適切に作成するには専門的な知識が必要です。

発注者側の方も、受託者側の方も、 重要な取引や高額な案件の場合は、 行政書士などの専門家に契約書の作成・チェックを依頼することをお勧めします。

お互いの権利義務を明確にすることで、トラブルを未然に防ぎ、良好な取引関係を築くことができます。

次回の内容

次回(第3回)は、「②報酬の支払いルール」と「③禁止される7つの事項」について解説します。

・報酬はいつまでに支払わなければならないの?
・「買いたたき」「不当な値下げ」はどこまで許されるの?
・デザインの追加修正を無料で要求されたら違法?

クリエイターが最も気になる「お金のルール」について、フリーランス新法施行後の違反事例なども交えて詳しく解説します。

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