報酬未払いは違法!フリーランス新法のお金のルールを徹底解説【第3回】

目次

はじめに

第1回では、フリーランス新法の基本と「誰が保護されるのか」を、第2回では「書面等による取引条件の明示義務」について解説しました。

今回は、クリエイターが最も気になる「お金のルール」について詳しく解説します。

「納品したのに、報酬がいつまでも振り込まれない」
「完成後に一方的に値下げを要求された」
「追加の修正を無償でやらされた」

こうしたトラブルはフリーランス新法に違反する可能性が高いです。

フリーランス新法の施行後、大手楽器販売会社がフリーランスの講師に体験レッスンを無償でさせていたとして、公正取引委員会から勧告を受けた事例もあります。

この記事では、報酬の支払いルール禁止される7つの事項について、実例を交えながら分かりやすく解説します。

報酬の支払いルール

フリーランス新法では、報酬の支払いについて明確なルールが定められています。
このルールは、第1回で解説した「特定業務委託事業者」(従業員がいる発注者)に適用されます。

発注者は、成果物を受け取った日(または役務の提供を受けた日)から起算して60日以内で、できる限り短い期間内に支払期日を定めなければなりません。

具体例

・5月15日に成果物を納品した場合 ⇒ 支払期日は7月14日まで(60日後)に設定する必要がある
・「納品日の翌々月末」という設定は? ⇒ 5月15日納品の場合、7月31日払いとなり、77日後になるため違法

検査を行う場合の注意点


納品物の検査を行う場合は、検査の開始日が受領日になります。

例:
・5月15日に納品 ⇒ 5月20日に検査開始 ⇒ 5月25日に検査完了
・基準日は5月20日(検査開始日)⇒ 7月19日までに支払期日を設定する必要があります。

支払期日を定めなかった場合

支払期日を定めなかった場合は、給付受領日または役務提供日が支払期日とみなされます。
つまり、即日払いが原則になるということです。

60日を超える支払期日を設定した場合

「納品日から90日後」など、60日を超える支払期日を設定した場合は、60日目が支払期日とみなされます。

例:
・契約書に「納品日から90日後に支払う」と記載
・5月15日に納品 ⇒ 法律上は7月14日(60日目)が支払期日とみなされる

発注者が90日後に支払っても、法律違反として行政指導の対象になります。

再委託の場合の特例:30日ルール

業務委託を受けたフリーランスが、さらに他のフリーランスに再委託する場合は、別のルールが適用されます。
例えばAさんがクライアントからホームページ制作の発注を受け、そのデザインの制作に関してBさんに再委託する場合などです。

元請業者から自分への支払日から30日以内

例:
・Aさんが企業から6月1日に受注 ⇒ Aさんは業務の一部をBさんに再委託 ⇒ Bさんは6月20日に納品
・企業からAさんへの支払日が7月31日 ⇒ AさんはBさんに8月30日までに支払う必要がある

元請からの入金を待ってから支払う場合でも、30日以内というルールは守らなければなりません。

禁止される7つの事項

1ヶ月以上の期間で業務委託を行う特定業務委託事業者は、以下の7つの行為が禁止されています。

①受領拒否の禁止

注文した物品または情報成果物の受領を拒むこと

契約通りに成果物を納品したにもかかわらず、正当な理由なく受け取りを拒否することは違法です。

具体例(違法)
・楽曲データを送ったのに「確認する時間がない」と放置
・納期通りにイラストを納品したのに「やっぱり使わないことにした」と受領拒否
・ロゴデザインを納品したが、「納期を1ヶ月延期する」と言って受け取らない

・成果物を一部だけ受け取らない場合も違法
・成果物を「後で受け取る」と納期を勝手に延期するのも違法

正当な理由がある場合
・契約で定めた仕様を満たしていない
・納期に遅れた
・フリーランス側に明らかな契約違反がある
こうした場合は、受領拒否が認められることもあります。

②報酬の減額の禁止

あらかじめ定めた報酬を減額すること

契約時に決めた報酬を、フリーランスに責任がないのに減額することは禁止されています。

どのような名目であっても減額は禁止
「協賛金」「協力金」「品質管理費」など、どんな名目をつけても、発注時に決定した報酬を減額することは違法です。

具体例(違法)
・「予算が減ったので、報酬を5万円から3万円に下げたい」
・「クオリティがイマイチなので、報酬から1万円引いておきました」
・「次回も発注するから、今回は報酬を半額にしてほしい」

③受領物の返品の禁止

フリーランスに責任がない場合に、受け取った物品を返品すること

一度受領した成果物を、フリーランス側に責任がないのに返品することは禁止されています。

具体例(違法)
・期日までに受領したクリスマスケーキを「デザインが気に入らない」と返品する
・契約通りに作曲した楽曲を「社長の好みじゃなかった」と返品する

正当な理由がある場合
・契約で定めた仕様を満たしていない
・明らかな欠陥がある(動作しない、使用できない)

④買いたたきの禁止

類似品等の価格または市価に比べて、著しく低い報酬を不当に定めること

相場よりも明らかに安い報酬を設定することは「買いたたき」として禁止されています。

どのように「著しく低い」と判断するのか?

明確な基準はありませんが、以下のような要素で総合的に判断されます
・同種の業務の市場価格
・作業量や難易度
・必要なスキルレベル
・過去の取引実績

具体例(買いたたきの可能性)

例1:相場の半額以下
ホームページ制作の相場:30〜50万円
提示された報酬:10万円にも関わらず、作業内容は相場と同等
⇒ 明らかに市場価格より低く、「買いたたき」に該当する可能性があります。

例2:「アマチュアだから」と不当に安い値段を提示
・プロのカメラマンなら5万円の撮影料とした場合、
・「あなたはアマチュアだから1万円で」
⇒ 作業内容や品質が同等であれば、「アマチュアだから」という理由での低価格は「買いたたき」になる可能性があります。

⑤購入・利用強制の禁止

発注者が正当な理由なく指定する物・役務を強制的に購入・利用させること

具体例(違法)
・「うちの会社の有料素材集を買ってから制作してください」
・「うちの推奨ソフトを購入してください」
・「撮影は指定のスタジオ(発注者の関連会社)を使ってください。費用はあなた持ちで」

正当な理由がある場合
・業務遂行に不可欠である
・フリーランス側が同意している
・業界標準のツールである

⑥不当な経済上の利益の提供要請の禁止

金銭、労務の提供等をさせること

報酬とは別に、不当に金銭や無償労働を要求することは禁止されています。

具体例(違法)
・「制作費とは別に、協賛金として5万円払ってください」
・「イベントの設営を無償で手伝ってください」
・「納品してもらう商品と同じものをサンプルとして無償提供してください」

⑦不当な給付内容の変更・やり直しの禁止

費用を負担せずに注文内容を変更し、または受領後にやり直しをさせること

これが最も問題になりやすい項目です。
契約時と異なる内容を追加で要求したり、納品後に無償でやり直しを要求したりすることは禁止されています。

具体例(違法)
・検収後に「やっぱりこのテイストで作り直して」と無償で要求
・「50個の製品を納品する」という契約なのに、追加で更に50個の追加納品を要求
・完成した楽曲を「もっと明るくして」「楽器を変えて」と無償で何度も修正要求

正当な修正要求との違い

以下の場合は、やり直しを求めることが認められます
・契約で定めた仕様を満たしていない
・契約で「修正◯回まで無料」と定めている範囲内
・明らかな不具合や欠陥がある

修正回数や追加費用は契約時に明記すべき

トラブルを防ぐため、第2回で解説した3条通知に以下の例を明記しておくことをお勧めします。
・修正対応:2回まで無料、3回目以降は1回につき◯円
・追加作業:別途見積もり

まとめ

フリーランス新法では、報酬の支払いと禁止事項について厳格なルールが定められています。

報酬の支払いルール
✅ 給付受領日から60日以内に支払期日を設定
✅ 支払期日を定めないと即日払いとみなされる
✅ 60日を超える設定は無効(60日目が支払期日)
✅ 再委託の場合は元請からの入金後30日以内

禁止される7つの事項
✅ ①受領拒否
✅ ②報酬の減額
✅ ③返品
✅ ④買いたたき
✅ ⑤購入・利用強制
✅ ⑥経済的利益の提供要請
✅ ⑦不当なやり直し

特に⑦の「無償でのやり直し要求」は、大手企業でも違反するケースが発生しています。
契約書に修正回数と追加費用を明記することが、トラブル防止の鍵です。

次回の内容

次回(第4回)は、長期契約のクリエイター向けルールについて解説します。

・募集情報の的確な表示
・契約の中途解除は30日前に予告が必要
・妊娠・出産・育児・介護への配慮義務
・ハラスメント防止措置

6ヶ月以上の継続的な契約を結んでいるクリエイターが知っておくべき、働く環境を守るルールを詳しく解説します。

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