はじめに
私には行きつけの散髪屋さんがあり、50年以上も経営しているその店には、それだけの付加価値があるということを以下の記事に記しました。

私は地元のお客さん向けにパソコン教室を運営しており、チラシもこのお店に置かせていただいています。
しばらくしてお店のご主人から電話があり、「スマホの使い方を教えて欲しいというお客さんがいるんやけど、話を聞いてもらえるかな?」と頼まれました。
電話を代わっていただいたお客様から詳しく伺い、自分の事務所で授業を行うことになりました。そのお客様はそれから1年以上定期的にお越し頂いています。

その後、散髪をしてもらうためにお店を訪れ、ご主人にお礼を伝えると、「チラシを持って帰ったお客さんが他にもいるから、また連絡があるかもしれんわ」と言っていただきました。そしてそのチラシを見たお客様や、先述のお客様からの紹介であったりと、その効果が少しづつ波及しています。
接客のプロが果たす「ハブ」の役割
50年の経営の中で数えきれないほどのお客さんと話をしてこられたご主人は、接客のプロ中のプロです。何気ない会話の中でお客さんの困りごとを聞き出し、ご自身では解決できないことでも「あの人に聞いてみたらいいんちゃう?」と提案できる見識や人脈を形成されています。
これは様々なネットワークを中継・仲介する「ハブ装置」のような役割であり、最近提唱される「ソーシャルビジネス(地域社会の問題をビジネスによって解決する)」の根底に通じるものがあります。
実は先日、日本政策金融公庫の担当者と面談する機会があり、公庫が力を入れている分野について伺いました。その中で、まさにこうした「ソーシャルビジネス」や地域のスタートアップ支援を重視しているとのお話がありました。利益だけでなく、その事業の支援者やファンの存在、地域社会への貢献度も評価するという姿勢に、金融機関もこうした活動を後押ししていることを実感しました。

価格競争を超えた「付加価値」
確かに今は全国チェーンの理髪店が進出してきており、価格だけで言えばそちらの方が安く、早くやってくれます。その価格は回転率を上げてコストを削減した結果であり、お客さんが「誰かスマホを教えてくれる人っていない?」と相談しても答えてくれる場所ではありません。
「散髪屋は髪を切るところ」と割り切って安い店に行くのも合理的な選択です。一方で、一見本業に関係ないところでも相談に乗ってくれる人・お店・企業の「付加価値」は、それ自身のファンを生み、安定した業績にも繋がっていくのだと思います。
残念ながら、ご主人の息子さんは店を継がれないようで、「他の散髪屋も後を継ぐところが少なくなってきているから、10年後くらいには個人経営の散髪屋は激減するかもしれない」と仰っていました。私も、ご主人が「体力の限界で引退する」と言うまでの間はお世話になるつもりですが、こうした「人と地域を結ぶことができる、ソーシャルビジネスの役割を果たせる人」が引退してしまうのは、地域にとって大きな損失です。
行政書士としての使命
今回、ご主人がスマホの相談先として私を選んでくださったことに、単に仕事を振ってもらったことへの感謝だけでなく、私自身も社会的な課題を解決するための「ハブ」としての役割を担っていく重要性を感じました。
地域の問題を解決するためのハブとなること。これは行政書士の使命であり、私の信念でもあります。法律の専門家として書類を作成するだけでなく、地域の困りごとを聞き、適切な専門家や機関につなぐ。クリエイターの創作活動を支援し、事業者の資金調達をサポートし、人と人を結びつける。
50年続く散髪屋のご主人から学んだこの「ハブ」の役割を、行政書士として、そして長浜市の一員として、これからも大切にしていきたいと思います。