はじめに
昨今では、契約書のひな形は、インターネットで検索すればいくらでも見つかる時代になりました。また、生成AIに指示をすれば、それらしい体裁の契約書が数秒で出力されることも珍しくありません。
こうした変化を、当事務所は否定的には捉えていません。契約書を作ること自体のハードルが下がり、当事者間のリスクを未然に防ごうという行動が広がっていくのは、良いことだと思っています。
ただ、その一方で、当事務所への契約書作成のご相談は引き続き頂戴しています。AIによって相談そのものが減ったと感じたことはなく、むしろ増加しております。それはなぜでしょうか。
依頼者が本当に求めているもの
契約書を依頼される方が本当に解決したいのは、「契約書という紙(またはデータ)が手元にあること」ではありません。取引を進めるうえで抱えている不安やリスクを、できる限りなくしたいという思いです。
AIは、「文章として整った契約書」を作ることには長けています。しかし、その取引自体のリスクがどこにあるのか、何を本質として契約書に残しておきたいのか、何を防げれば依頼者が安心できるのかは、対話を通じてでなければ見えてきません。契約書はあくまでもその道具に過ぎず、道具の形だけを整えても、目的そのものが達成されるとは言えません。

「依頼者に有利な条件」を書けばいい?
契約書の作成にあたっては、お客様からご依頼をいただいた以上、法的に問題のない範囲で依頼者に有利な条項を入れることが求められます。しかし、行政書士は契約の交渉や仲介の場に立つことができません。相手方とのやり取りは、あくまで依頼者ご自身が行うことになります。
つまり、目の前にいない相手方が、この契約書の中身を読んでどう感じ、どう反応するかを、あらかじめ条文の中に織り込んでおく必要があるということです。交渉ができないからこそ、交渉を経ずとも合意にたどり着けるところまで、文書の段階で調整し尽くしておかなければなりません。
これは、依頼者にとって有利になることと、その契約が問題なく成立するのかという、ともすれば相反する二つの間で、ちょうど良い落としどころを探る作業です。そしてこのバランスは、目の前の取引が一度きりのものか、これからも続いていく関係なのかによっても変わってきます。一度きりの取引であれば強気な条件でも成立するかもしれませんが、継続的な関係であれば、強すぎる条件がかえって信頼関係を損ね、その後の取引そのものを難しくしてしまうこともあります。
もちろん、状況によっては双方の打ち合わせの内容を踏まえて、契約締結前に契約書をさらにブラッシュアップしていくこともありますが、その一方で、双方が契約書の内容を十分に理解しないまま、なんとなく締結してしまうということも起こり得ます。そう考えると、専門家として、適当な対応で済ませることは許されません。

契約書は何のためにあるのか
大きな視点で捉え直すと、契約書とは、単なる法的文書ではなく、当事者同士の関係を、これから先も壊さずに成立させ続けるためのものだと言えます。
取引には常に、相手が何を考えているか完全にはわからないという不確実性がつきまといます。契約書は、その不確実性をできる限り小さくするために存在しており、そこに求められるのは文章力そのものよりも、状況を読み、落としどころを設計する判断力であると考えています。
当事務所は、契約書の作成やご相談を通じて、お客様の活動を共に育てる「伴走型」のパートナーとして、これからもサポートしてまいります。